高病原性ウイルスパンデミックに迅速対応可能なハイスループット中和抗体検査法の開発

研究成果|高病原性ウイルスパンデミックに迅速対応可能なハイスループット中和抗体検査法の開発 研究成果|高病原性ウイルスパンデミックに迅速対応可能なハイスループット中和抗体検査法の開発

研究成果

AMED関連

新型コロナウイルス感染症への免疫獲得状況を知る中和抗体の評価法を確立しました。中和抗体には、ウイルスが細胞に入り込みにくくするはたらきがあり、この抗体を持つ人はウイルスに感染しにくい可能性があります。新型コロナウイルス感染症での免疫のできかたにまだわからないことが多い中、富山大学附属病院(総合感染症センター)の患者さんの協力を得て、発症した人では中和抗体が確認されることがわかりました。また、国内で初めて全血(細胞成分を除かない状態の血液)でも評価できることが明らかとなりました。この技術を活用することで、集団免疫の評価やワクチンの有効性評価を大規模に行うことが期待されます。

Tani H, Kimura M, Tan L, Yoshida Y, Ozawa T, Kishi H, Fukushi S, Saijo M, Sano K, Suzuki T, Kawasuji H, Ueno A, Miyajima Y, Fukui Y, Sakamaki I, Yamamoto Y, Morinaga Y. Evaluation of SARS-CoV-2 neutralizing antibodies using a vesicular stomatitis virus possessing SARS-CoV-2 spike protein. Virol J. 2021 18:16. doi: 10.1186/s12985-021-01490-7.

https://virologyj.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12985-021-01490-7

新型コロナウイルス感染症を発症した成人では、発症時のウイルス量が多い人が周りの人への移しやすいことことがわかりました。また、病状の改善に合わせて、ウイルス量が確実に減っていくことを示しました。パンデミックの極めて初期からこのような背景や未知であった病態が理解できたことで、日常診療方針やAMED事業の研究展開に活かされることになりました。

Kawasuji H, Takegoshi Y, Kaneda M, Ueno A, Miyajima Y, Kawago K, Fukui Y, Yoshida Y, Kimura M, Yamada H, Sakamaki I, Tani H, Morinaga Y, Yamamoto Y. Transmissibility of COVID-19 depends on the viral load around onset in adult and symptomatic patients. PLoS One. 2020 15:e0243597. doi:10.1371/journal.pone.0243597.

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0243597

新型コロナウイルス感染症を発症した人の中には、血液中にウイルス遺伝子が観察される人がいることがわかりました。しかも、重症な人ほどその割合が高いことも明らかとなりました。また、死亡の経過をたどった人ではウイルス遺伝子量が多いこともわかりました。血中にウイルス遺伝子が観察される事は、ウイルスが体内に侵入したことを確定させる情報であり、このような人たちでの抗体などの免疫獲得状況を調べることで、中和抗体の理解をより正確にすることが可能となります。

Kawasuji H, Morinaga Y, Tani H, Yoshida Y, Takegoshi Y, Kaneda M, Murai Y, Kimoto K, Ueno A, Miyajima Y, Kawago K, Fukui Y, Kimura M, Yamada H, Sakamaki I, Yamamoto Y. SARS-CoV-2 RNAemia with a higher nasopharyngeal viral load is strongly associated with disease severity and mortality in patients with COVID-19. Med Virol. 2022 94(1):147-153. doi: 10.1002/jmv.27282.

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jmv.27282

新型コロナウイルス感染症発症後の中和抗体獲得の経過を調べました。発症2~12日までには抗体が獲得されていました。中等症までの人の方が、重症・最重症の人よりも中和抗体ができやすいという結果となりました。この結果から、早期に免疫ができやすさが、病気の進行しにくさに関係している可能性があります。

Kawasuji H, Morinaga Y, Tani H, Kimura M, Yamada H, Yoshida Y, Takegoshi Y, Kaneda M, Murai Y, Kimoto K, Ueno A, Miyajima Y, Kawago K, Fukui Y, Sakamaki I, Yamamoto Y. Delayed neutralizing antibody response in the acute phase correlates with severe progression of COVID-19. Sci Rep. 2021 16;11(1):16535. doi: 10.1038/s41598-021-96143-8.
medRxiv 2021.02.06.21251246; doi: https://www.nature.com/articles/s41598-021-96143-8

PCR検査で長く陽性となることが話題となっていましたが、年齢が上がるほど、陰性となるまでの期間が長引くことを明らかとしました。

Ueno A, Kawasuji H, Miyajima Y, Fukui Y, Sakamaki I, Saito M, Yamashiro S, Morinaga Y, Oishi K, Yamamoto Y.
Prolonged viral clearance of severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 in the older aged population.
Journal of Infection and Chemotherapy. 2021. 27: 1119-1121. DOI: 10.1016/j.jiac.2021.03.007

ファビピラビルによる薬剤熱の報告です。治療中の発熱は鑑別が難しいですが、薬剤熱も考慮すべきと言えます。

Murai Y, Kawasuji H, Takegoshi Y, Kaneda M, Kimoto K, Ueno A, Miyajima Y, Kawago K, Fukui Y, Ogami C, Sakamaki I, Tsuji Y, Morinaga Y, Yamamoto Y.
A case of COVID-19 diagnosed with favipiravir induced drug fever based on positive drug-induced lymphocyte stimulation test.
International Journal of Infectious Diseases. 2021. 106, 33-35. DOI: 10.1016/j.ijid.2021.03.048

退院、あるいは隔離中止時点での鼻咽頭のウイルス量を評価しました。発症日は自己申告に基づくことも多いために、発症日退院後や宿泊施設での隔離の中止後も、感染予防への配慮は必要な場面もあるかもしれません。

Fukui Y, Kawasuji H, Takegoshi Y, Kaneda M, Murai Y, Kimoto K, Ueno A, Miyajima Y, Kawago K, Sakamaki I, Morinaga Y, Yamamoto Y.
Investigation of nasopharyngeal viral load at discharge in patients with COVID-19.
Journal of Infection and Chemotherapy. 2021. In press. DOI: 10.1016/j.jiac.2021.03.023

“COVID-19感染後”にできる抗体を調べることで、2つ手法の性能を確かめました。482名の方の協力を得て、「質」を中和抗体評価法(CRNT法)で、「量」を一般的に利用可能な抗体検査(抗RBD抗体)で調べて以下のことがわかりました。

  • 中和抗体と抗RBD抗体検査は、症状があったCOVID-19患者(10日目以降)を効率よく検出できる。
  • 中和抗体と抗RBD抗体検査は、良好に相関する。
  • COVID-19で得られた抗体は約8か月後でも継続している。
  • 抗RBD抗体検査でわかる抗体の「量」は中和抗体での「質」と相関する。
  • 変異株への中和効果としての「質」は低下するが、多くは交差反応性を示す。
  • 抗RBD抗体検査での「量」多いほど、変異株への中和能としての「質」も高い。

Morinaga Y, Tani H, Terasaki Y, Nomura S, Kawasuji H, Shimada T, Igarashi E, Saga Y, Yoshida Y, Yasukochi R, Kaneda M, Murai Y, Ueno A, Miyajima Y, Fukui Y, Nagaoka K, Ono C, Matsuura Y, Fujimura T, Ishida Y, Oishi K, Yamamoto Y. Correlation of the Commercial Anti-SARS-CoV-2 Receptor Binding Domain Antibody Test with the Chemiluminescent Reduction Neutralizing Test and Possible Detection of Antibodies to Emerging Variants. Microbiol Spectr. 2021 22;9(3):e0056021. doi: 10.1128/Spectrum.00560-21.
https://journals.asm.org/doi/full/10.1128/Spectrum.00560-21

“新型コロナワクチン接種後”にできる抗体を2つの手法で確かめました。ファイザー社製ワクチン接種後740名の方の協力を得ました。「質」を中和抗体評価法(CRNT法)で、「量」を一般的に利用可能な抗体検査(抗RBD抗体)で調べて以下のことがわかりました。

  • ワクチン2回接種後100%の人で、抗体の「質」・「量」ともに確認されました。
  • ワクチン接種後に発熱などの全身反応がなかった人や、年齢が高めの人に抗体の「量」が少ない人がいますが、「質」は基準以上でした。(調査年齢 20~69歳)
  • 変異株(英国型・南アフリカ型)への抗体の「質」は従来型よりやや落ちますが基準以上でした。

Kawasuji H, Morinaga Y, Tani H, Saga Y, Kaneda M, Murai Y, Ueno A, Miyajima Y, Fukui Y, Nagaoka K, Ono C, Matsuura Y, Niimi H, Yamamoto Y. Age-Dependent Reduction in Neutralization against Alpha and Beta Variants of BNT162b2 SARS-CoV-2 Vaccine-Induced Immunity. Microbiol Spectr. 2021 9(3):e0056121. doi: 10.1128/Spectrum.00561-21.
https://journals.asm.org/doi/abs/10.1128/Spectrum.00561-21

抗体についての二つの研究成果のまとめ

抗体についての二つの研究成果のまとめ

二つの研究成果よりわかったことがあります。
抗体の「量」は感染者よりワクチン接種後が約60倍多いことがわかりました。変異株への中和効果は従来株への効果よりやや落ちますが、ワクチン接種後に獲得される抗体の「量」が多いことで、変異株を中和する「質」が補われている可能性があります。変異株に対する免疫のできかたやワクチンの効果の理解につながり、今後の感染症対策の考え方に活かすことができます。

抗体についての二つの研究成果のまとめ

新型コロナウイルス感染症の診断には、主に遺伝子検査(PCR検査など)が用いられ、鼻咽頭ぬぐい液や唾液中にウイルス遺伝子が含まれていれば陽性となります。しかし、ウイルスの残骸である遺伝子だけあっても陽性となるので、生きたウイルスが含まれているかは分かりません。遺伝子検査は、陽性結果が得られるまで繰り返しウイルス遺伝子を増幅させるものですが、陽性となるまでのサイクル数を表すCt値が30以下であった場合に、生きたウイルスがより高頻度で含まれていることがわかりました。

Igarashi E, Tani H, Tamura K, Itamochi M, Shimada T, Saga Y, Inasaaki N, Hasegawa S, Yazawa S, Sasajima H, Kaya H, Nomura S, Itoh H, Takeda S, Yamamoto Y, Yamashiro S, Ichikawa T, Horie Y, Hirota K, Hirano N, Kawasiri C, Oishi K. Viral isolation analysis of SARS-CoV-2 from clinical specimens of COVID-19 patients. J Infect Chemother. 2022 28(2):347-351. doi: 10.1016/j.jiac.2021.10.028.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1341321X21003019?via%3Dihub

一般の実験室レベルでも取り扱えるシュードタイプウイルスを活用し、中和抗体の評価だけではなく、動物実験にも応用させ、感染動物モデルを確立しました。これは、ハムスターにシュードタイプウイルスを感染させ、肺に感染したウイルスの量を光の強さで評価するものです。この方法を用いることで、現在、富山大学で開発中のスーパー抗体などの効果を動物実験で確かめることができるようになりました。

Yamada H, Sasaki S, Tani H, Somekawa M, Kawasuji H, Saga Y, Yoshida Y, Yamamoto Y, Hayakawa Y, Morinaga Y. A novel hamster model of SARS-CoV-2 respiratory infection using a pseudotyped virus. bioRxiv 2021.09.17.460745; doi:
https://doi.org/10.1101/2021.09.17.460745
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.09.17.460745v1

新型コロナウイルス感染症で入院された患者さんのうち、肺炎があったり、入院中に酸素が必要となったり(呼吸不全)した患者さんは、発症間もない時期に、インターフェロンアルファ(α)というサイトカイン(細胞から放出され、免疫を調節するタンパク質)が血中に多く検出されることが分かりました。インターフェロンαは鼻咽頭のウイルス量や血中のウイルス遺伝子の観察にも関連しており、ウイルスの肺や血中への侵入を反映していることが示唆されました。これらの結果から、入院時にインターフェロンαを測定することで、呼吸不全のより正確な予測につながる可能性があります。

Nagaoka K, Kawasuji H, Murai Y, Kaneda M, Ueno A, Miyajima Y, Fukui Y, Morinaga Y, Yamamoto Y. Circulating Type I Interferon Levels in the Early Phase of COVID-19 Are Associated With the Development of Respiratory Failure. Front Immunol. 2022 13:844304. doi: 10.3389/fimmu.2022.844304.
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fimmu.2022.844304/full

新型コロナワクチンは、変異株に対しても発症予防効果や重症化予防効果が確認されていますが、時間の経過に伴い、中和抗体が減ってしまい、予防効果が徐々に低下してしまいます。当研究班では、抗体の「量」と、「質」としての中和活性(どれだけ感染を阻止する力があるか)を評価しながら、2回接種後からの抗体推移と3回目接種の効果を調べ、以下のことが分かりました。

  • ワクチン接種から6ヶ月経つと、抗体の「量」は約3分の1まで低下していました。
  • 抗体の「質」の中和活性も低下しており、野生株に比べてデルタ株、オミクロン株で顕著でした。
  • 3回目接種により、抗体の「量」やデルタ株、オミクロン株への中和活性の回復が確認されました。
  • 3回目接種後に37.5℃以上の発熱、全身倦怠感、筋肉痛、接種部位の腫脹、硬結があった人で抗体の「量」が多い結果でした。

Kawasuji H, Morinaga Y, Tani H, Saga Y, Kaneda M, Murai Y, Ueno A, Miyajima Y, Fukui Y, Nagaoka K, Ono C, Matsuura Y, Niimi H, Yamamoto Y. Effectiveness of the third dose of BNT162b2 vaccine on neutralizing Omicron variant in the Japanese population. medRxiv 2022.02.23.22271433; doi:https://doi.org/10.1101/2022.02.23.22271433
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2022.02.23.22271433v1

3回目接種前後の抗体の「量」の変化

抗体についての二つの研究成果のまとめ

3回目接種前後の中和活性値の変化

抗体についての二つの研究成果のまとめ

3回目接種前後での高い中和活性を示す人の変化

抗体についての二つの研究成果のまとめ

AMEDの支援によらない新型コロナウイルス関連の成果

重症の新型コロナウイルス感染症の治療方針に、PCR検査のウイルス量の情報が役に立ち、救命できた症例の報告です。

Sakamaki I, Morinaga Y, Tani H, Takegoshi Y, Fukui Y, Kawasuji H, Ueno A, Miyajima Y, Wakasugi M, Kawagishi T, Kuwano H, Hatano T, Shibuya T, Okudera H, Yamamoto Y. Monitoring of viral load by RT-PCR caused decision making to continue ECMO therapy for a patient with COVID-19.
J Infect Chemother. 2020 26:1324-1327. doi:10.1016/j.jiac.2020.08.014.

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1341321X20302944?via%3Dihub

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